のりさんの研究室

上越教育大学 榊原範久のブログです。

たった一つを変えるだけで

今日はゼミ生との会話を思い出して、新年度に教員の皆さんに役に立ちそうな話を書いてみます。

 

昨年度末、4月から教壇に立つ新任教員数名と、現職派遣の院生で、私の研究室にてこんな話をしました。

ゼミ生「先生、最後に私たちに教員として役立つメッセージをください。たくさんだと全部実行できなさそうなので、一番大切なのを1つお願いします!」

 

助言したいことは星の数ほどありますが、1つと言われると悩みます。しばらく考えたのち、私はこう話しました。

私「じゃあ、とっておきなのを1つ。これは現職の〇〇さんにも当てはまることです。たった一つを変えるだけで、激変する教育技術について教えてあげよう。」

ゼミ生「え!知りたーい。そんな魔法みたいな方法あるんですか。」

私「私が中学校に勤めていた時の話で、生徒指導主事という仕事を初めて任された時の反省と教訓からの教育技術です。」

ゼミ生「前におっしゃっていましたね。生徒指導が大変だった時期に生徒指導主事として赴任したことがあるって。」

私「赴任して一年目。まず、生徒を知らない、保護者を知らない、そして先生も知らない人が多い状態です。その中で、生徒たちの『荒れ』を抑えていくためにルールの徹底を厳しく呼びかけました。新しくルールを作ったり、生徒指導の問題の報告会を設けたり、様々な策を行なっていきました。それでその学校はどうなったかっていうと、全然改善しなかった。むしろ生徒指導的には悪い方向に進んでいったんだよね。僕の生徒指導主事1年目は失敗したんだ。」

ゼミ生「先生も失敗するんですね(嬉しそうに)。先生が行った指導の内容が間違ってたってことですか?」

私「それは違うかな。保身でもなくてね。成功する生徒指導みたいな書籍も結構読んでたし、理論的には合ってたと思う。でもうまくいかなかった。」

ゼミ生「じゃあ何で失敗したんですか?」(人から言われると昔のことながら傷つく笑)

私「僕が言ってたことが全然先生たちにも子どもたちにも入っていなかったんだよね。これは伝える技術が下手っていうのもあるけど、それ以上に『言葉が入ってくる先生』じゃなかったってこと。つまり、この人(私のこと)の言うことなら聞こう、っていう環境が作れないまま、理論だけ振りかざして突っ走ってたんだよね。それで、だんだんと状況が悪くなって。さらに僕は強引な指導になっていって、さらに生徒は反発し、言うこと聞いているふりをしている先生たちも心では反発していたと思う。」

ゼミ生「なんか想像できます。」(人から言われるとやはり傷つく笑)

私「ここからが本題。でもね、2年目に思い立って、たった一つのことを変えたらうまくいくようになったのよ。」

ゼミ生「えーー気になります」

私「僕が変えたのは『全員の先生と意識的に1日一言ずつは喋る』ということ。」

ゼミ生「それだけ?」

私「そう。それだけ。それを生徒指導主事2年目の4月から自分にノルマ付けたの。」

ゼミ生「それで何で変わるんですか?」

私「生徒指導主事って空きコマも多くて、問題が起きなければ、担任の先生より自由な時間が多いのね。それで職員室で色々な先生に話しかけるようにした。どんな声かけをしたかっていうと

『〇〇先生の学級目標の【向日葵】、あれいいっすね。どんな意味があるんですか?』

不登校傾向の〇〇さん、今日久しぶりに来てたね。』

『車替えました?いいなあ。』

『コーヒー多く入れちゃったんですけど、飲みます?』

『何このフィギュア?』

『お菓子、どうぞー。』

『この前、●●亭のラーメン食べたらさあ…』

とかね、生徒指導関係の話もしたけど、ほとんどは世間話。最初は全員と喋るのきつかったなあ。帰る前に名簿見て、まだ話していない先生はいないかってチェックしたり。話が盛り上がらない人もやっぱりいるでしょ。あと、生徒ともなるべく多人数話しかけるようにした。全校生徒は難しかったけどね。それでもかなり話しかけるようにしたよ。で、それで大きく変わっていったの。夏休みあたりまでゆっくりと時間をかけて。なんか歯車が回り始めた感じにね。」

ゼミ生「そうなんですかあ」(少し疑いの目)

私「生徒指導の方針とかルールとかあまり変えていないんです。呼びかけの回数もそれほど変わっていません。でも僕が生徒指導の話をしている時の、それを聞いている生徒や教員の表情が明らかに変わっていったの。去年は何度言っても動かなかった人たちが明らかにプラスに動くようになったんだよね。」

ゼミ生「先生の言うことを聞いてくれるようになったってことですか。」

私「そうなんです。結局、『何を言うか』より『誰が言うか』が大切だったってこと。その効果的な『誰が』に僕がなっていったんだね。」

私「だから、皆さんに言えることは『職員室で全員の先生に意識的に話しかけよう』です。最初は難しいので「できるだけ多くの先生」で大丈夫です。これは教室に読み替えた場合『教室で全員の子どもに意識的に話しかけよう』です。そうするとだんだん変わっていくんです。あなたの仲間はどんどん増えて、困った時に助けてくれるようになるし、お願いしてちゃんと動いてくれるようになります。子どもも、先生たちも。特に新しいコミュニティに入った時は必須の行動だね。」

ゼミ生(現職)「コミュニケーションを取ることは大事だと思っていたけど、確かに全員の先生とは、明らかに話せていないませんでした。」

 

職員室での話を強調しましたが、これは教室でも同じです。話しかけることを意識してみると、いかに自分が話かけていない人がいたかと気付かされます。

若い先生たちは、若いというだけで人が寄ってきます。このボーナスポイントは十分に生かしてほしいですが、例えば子どもたちが自分の周りに円を作って集まった時、ちょっとその外を見てほしいと思います。先生に話しかけたくても、話かけられない子がじっとそこに座っていることがあります。その子にもちゃんと話しかけられていますか。

この話は管理職にも当てはまりますね。新年度、作成しなければならない膨大な書類があり、パソコンと睨めっこの時間が続きます。そんな時でも意識的に、席から立ち上がり、意識的に先生たちに話しかけてほしいと思います。また、新年度は先生たちも管理職の方達に相談のために話しかけたいことが多くあります。話しかけられた時、パソコンの画面をちゃんと閉じることができて、相手の目を見て話すことができているでしょうか。

働き方改革も相まって職員室での教員の共同滞在時間は短くなってきています。その短い時間の中でパソコンの画面にかじり付いてしまうことがあります。

そんな時代だからこそ、意識して話しかけることが大事。少しでいいんです。私がやっていたように一言でいいんです。「意識して話しかける」というその動きは、きっと伝染します。あなたが喋りかけることで、他の場所でも喋りの花が咲き始めます。そして、職員室の風通しが良くなっていきます。

年度はじめのこの時期です。私が失敗の一年から抜け出した方法『職員室で意識的に全員の先生たちに話しかけよう」をお勧めします。