のりさんの研究室

上越教育大学 榊原範久のブログです。

単元内自由進度学習をどう評価する?


昨日、研究支援に入っている中学校の先生から相談を受けた内容です。

非常に興味深い相談内容だったので、私がその場で回答したこととをまとめてみました。

 

現在、「単元内自由進度学習」が教育現場で盛んに取り組まれています。

その手法については今回触れませんが、多くの先生方が気にしている「単元内自由進度学習の評価」について書きたいと思います。ちゃんと授業をされている先生は「評価」について常に考えられています。これ自体は大変よいことですね。しかし、新しい授業デザインにしていく際に、従来通りの評価の枠組みが通用するわけではありません。その辺りを含めて考えてみました。

 

1.評価と評定、混同していませんか?

 まず最初に押さえたいのが、「評価」と「評定」は別物だということです。

・評価:学習の過程や成果について情報を集め、それを分析しながら教師や生徒が次の一手を考えるために活用するもの。
・評定:学期末や年度末などに、通知表などの形で最終的な成績をつけるもの。日本の学校だと1〜5やA〜Cなどがこれにあたります。
 自由進度学習のように、一人ひとりの進度が違ってくる学びでは、特に「評価」の役割が大きくなります。一方で、保護者や生徒からすると「評価結果=成績・評定」と考えがち。そこをきちんと区別して捉えることが、今後の教育改革をスムーズに進めるためには欠かせません。

 

2.「網羅主義」から「構造主義」へ

 これまでの授業は、教科書の内容をすべて漏れなく扱うことを重視する「網羅主義」が主流でした。しかし、現在の教育では「網羅した知識」をただ暗記するよりも、単元の本質的な概念や枠組みを深く理解することにシフトしつつあります。いわゆる「構造主義」的な考え方です。

1単位時間の理解は軽視できないけれど……
・単元レベルで大きな枠組みを学ぶことが大切なのは間違いありません。
・しかし、だからといって1回ごとの授業(1単位時間)での学習内容をいい加減にして良いわけではありません。
・その時間で押さえるべきキーワードや概念が抜け落ちると、最終的な単元理解に支障が出る可能性があるからです。
 結局は、単元全体のゴールを意識しつつ、1時間の中での学習課題設定やキーワードの提示は丁寧に行わなければいけないわけです。

 

3.単元レベルのルーブリックが鍵

単元のゴールを見据えた評価基準
 自由進度学習では、生徒たちがそれぞれのペースで進みます。その際に重要になるのが、「単元で何を学ぶのか?」が明確に示されていることです。ここで大きな役割を果たしてくれるのがルーブリックです。

・単元ごとに重要な概念やスキル、到達レベルを整理し、「到達した子どもの姿」という目安を示す。
・学習者自身が「今自分はどのあたりまで理解しているか」を客観的に把握できるようになる。
・教師側も、どの生徒がどこでつまずいているのかが分かりやすくなるので、個別にフォローしやすい。

 

4.1単位時間ごとのルーブリックは不要か?
 一方で、毎時間のように細かいルーブリックを作成・運用するのは、現実的には大変です。教員の業務が膨大になるのはもちろん、そこまで細分化すると逆にゴールが見えにくくなる恐れもあります。もちろん、作成するに越したことはないですが持続可能ではないと思っています。

 そこで、単元全体のルーブリックをメインに置き、1単位時間はあくまで「進捗確認」「本時の学習のキーワード提示」などに注力するほうが持続的に運用しやすいでしょう。本時の学習のキーワードの習得をフォローをしないと、知識理解の習得の漏れが生じます。

 

5.形成的評価の大切さ

自由進度学習では、学習者がどこまで理解できているかを随時チェックし、必要があれば再指導や学習計画の修正を行うことがとても大切です。これがいわゆる形成的評価と呼ばれるもの。

・ショートテストやチェックリストで、理解度をこまめに可視化。
・自己評価シートや相互評価で、生徒同士が学習内容を確認し合う。
・オンラインツールや学習支援アプリを活用して、リアルタイムで進捗を見られるようにする。
 こうした取り組みを積み重ねていけば、途中でつまずいた生徒を早期にサポートできるし、逆に進度の早い生徒には発展的な課題を与えることも可能になります。

 

6.評価と評定、両方を関係者が理解することの大切さ

 最後に強調しておきたいのが、教師、生徒、保護者が「評価」と「評定」の捉えを明確に共有することの重要性です。

「途中のチェック=評価」は、あくまで学習の改善やサポートが目的であって、それが直ちに評定(成績)に反映されるわけではありません。子どもたちを学習の中で勇気づけるためにはこの「評価」が鍵を握っています。単元の終わりや学期末に行われる「評定」は、最終的にどのレベルに到達したかを示す指標です。
 この区別が曖昧だと、生徒も保護者も「ちょっと評価(評定のこと)が悪くなったらどうしよう」と不安になり、自由進度学習の良さを活かせなくなります。

 これまでの教師主導の授業デザインから、自由進度学習の授業デザインへ変えることは「授業改革」のレベルです。教員、生徒、保護者などの学校に関わる人たちが皆、授業観を変えていかなければうまくいかないでしょう。

 

まとめ

評価と評定を混同しない
→ 評価は学習改善のためのフィードバック、評定は最終的な成績化
構造主義」的な視点で単元全体を通じて学びの本質をおさえる。
→ 1単位時間の知識伝達も大切だが、ゴールは「単元の構造理解」
単元レベルでルーブリックを作成し、教員による形成的評価と結びつける。
→ 毎時間の詳細ルーブリック運用は負担が大きいので要工夫
教員の形成的評価が個別最適な学びを支えることをしっかりと認識する。
→ 自分がどこまでできているかを随時確認し、必要に応じて軌道修正
教師・生徒・保護者の合意形成が不可欠。
→ 「評価」=「評定」ではないと周知し、自由進度学習の意義を共有。


 これからの教育では、生徒一人ひとりが自分のペースで深く学ぶことが求められます。その背景には「網羅主義」ではなく「構造主義」の考え方があり、さらに言えば「単元内自由進度学習」でこそ発揮される可能性が大きいのです。