のりさんの研究室

上越教育大学 榊原範久のブログです。

博士の学位取得

博士(学校教育学)の学位を取得することができました。
指導教官の水落先生にはこれまでたくさんのご指導をいただきました。
また、先生とはこれまで全国津々浦々、学会や研修会にご一緒させていただきました。

その中でたくさんのことを経験し、それが今に繋がっていると思います。


また、鳴門教育大学の久我先生、上越教育大学の西川先生、桐生先生からも、この3年間、学位論文についてたくさんのご指導をいただきました。


素晴らしい指導教官に恵まれてきたことが自慢です。

 

手元には、3つの教育大学の学位記があります。

学士、教職修士(専門職)、博士いずれも教育大学で学位を取得しました。
どこまでも教育なんだなと振り返ります。

僕にはこれしかないし、これが大切にしたい柱なんだと。

 

これまでお世話になった先生方、諸先輩方に深く感謝いたします。

師匠は今日こう言いました「ここはゴールではなく、スタート地点です。」


これからも理論と実践の往還を大切にしながら、現場のためになる研究を進め、日本の教育の発展に尽力していきたいと思います。

修了の日

本来なら、今日は大学院2年生(M2)の修了式が行われるはずだった日。

修了式はこの度のコロナウイルスの拡大を受け、残念ながら中止です。

 

春分の日でもあり(天候は春の嵐でしたが)、きっとたくさんの笑顔と涙の中での旅立ちの日になったことでしょう。

 

午前中、研究室で仕事をしていました。

昨年度はゼミ生を取っていないので、私のゼミには修了生となるM2がいません。

それでもM2の担任をしていたため、数人の修了生が研究室に顔を出してくれました。

そして、4月から始まる教員生活に向けての思いを話してくれました。いい顔で話をしてくれました。

別れ際に、手を差し伸べて、握手をしました。

「これからも応援してるよ」

「頑張ります!」

 

出会いと別れを繰り返し、人は成長していきます。

大学院で学んだことを糧に、これからも大きく羽ばたいていってほしいと思います。

そして、自ら幸せな教師になることを目指し、そして周りの子どもたちも幸せにしていってほしいと願います。

学部生の訪問

学部2年生からこんなメールがありました。

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榊原先生

本をお借りしたく、メールさせていただきました。

TSUTAYAに行ったのですが、どの本に手をつけていいのか選べずに困っています…(笑)

お時間ありましたら、研究室の方へ伺いたいです。

よろしくお願いします。

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このところ新型コロナウイルスの拡大を受け、全ての出張、研究会、学会、懇親会、全部なくなってしまったこともあり、研究室の滞在時間が長くなってきている私。

学生たちも同様で、部活の大会はもちろん中止で、練習も月末まで中止になり、時間を持て余しているという話。

 

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◯◯さん

榊原です。
歓迎します。ぜひ、来てください。

明日の午後14:00-18:00あたりの時間に都合が合えば、どうぞ。

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トントントン。

「よく来たねえ!」

「先生、退屈なんです。廃人になりそうです。」

「それで、ここに来るってのがいいねえ笑。

じゃあ、好きな本選んでいいよ。

ほとんど教育に関係する本で、面白いかは微妙だけどね笑。でもためにはなるよ。」

 

彼が選んだのは、下の2冊。なかなかセンスあると思いました。

来週に読書ゼミ、彼と行うことにしました。

どんな感想をもってくるのでしょう。楽しみです。

 

こういう意欲的に、というか衝動的に動ける学生、いいと思う。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

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「学力」の経済学

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  • 作者:中室 牧子
  • 発売日: 2015/06/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

ゼミにおける異学年交流の「協働」の価値

榊原研、水落研、大島研で合同ゼミを行いました。

明日の学校支援プロジェクトセミナーのリハを兼ねています。


今日のゼミには、文部科学省総合教育政策局の教員養成企画室から、金郁夫室長補佐が視察に来られました。

我々教員にとっても、院生、学部生にとっても、大変光栄なことですし、大きな刺激になりました。

 

また、教職大学院での学びの実際は、文科省の内部までなかなか伝わりにくいところもあるので、文部科学省の方に参観していただいて、生の学生の学びの姿を通して、教職大学院の意義や頑張り、そして問題点なども明確化されることを願います。

 

話をゼミに戻します。

 

私たちのゼミは基本的に「協働」を大切にしています。

知識も経験も年齢も違う集団が「よりよい教員になる」という共通の目的意識のもと、豊に学び合うことが大切だと考えています。

しかし、全国にある他の教職大学院の中には、現職院生と学卒院生が別々のカリキュラムで学ぶところは少なくないです。

院生と学部生はさらにその傾向が強いでしょう。

 

今日のゼミでは、学部2年生、3年生、4年生、そして院生M1、M2とさらにその中には現職院生もいるわけです。そのメンバーがグループ討議をしていきます。

この中の会話が面白いです。

学部2年生が率直な質問をします。

「この研究になぜタブレットを使ったんですかすか?」

大学院生は返答に窮していました。手段が目的化していることの気づかされたようでした。大学院生はうまくそれぞれの意見を吸い上げてグループの意見をまとめていく様子が見られました。

 

もちろん、異学年を設定すれば学び合えるとは思いません。

それなりの手立ては打つ必要があります。

リハーサル発表の中で、一人一台のタブレットをedutabシステムでつないで、リアルタイムに全員の意見が一覧表示される環境で行いました。そうすることで、学年問わずコメントを書き込むことができ、さらにそのコメントのログを次のグループ等ぎで活用して議論をすることができます。

今日のゼミを見ていても、学習環境を整え、協働する場面、対話する場面を設定することで、学びは深まることを再認識しました。ゼミにおける異学年交流の挙動の価値は大きいです。

文科省の金室長補佐から、ゼミの様子を褒めていただきました。ありがたいことです。

明日のプロセミの発表が楽しみです。

学部卒業研究発表会

学部生の卒業研究発表会が行われました。

大学院の担当教員ですが、学部生もゼミ生として受け持っています。

 

榊原研には、10名の学部生が所属していますが、まだ4年生はいません。


今日は7名の発表を聞きました。

 

いずれも創造性に溢れるものばかりでした。
研究のキーワードを挙げると

 

・給食指導
・教職科目・教科科目を学ぶ意義
・将来設計における男女間の意識格差
・ゼミナール活動の機能
・『学び合い』による人間関係形成
特別支援教育に対する意識
・授業中の疑問の生成、解消

 

面白いなあ、と思います。
逆立ちしても自分からは出てこないアイデアばかりです。

 

研究としてのルールや作法については、確かに不足はありました。


しかし、それ以上に、彼らが教員養成大学で学ぶ中で芽生えた問題意識が、ダイレクトに研究になっていたことが素晴らしかったです。

 

このまま、向上心と探究心を持ち続けられれば、生涯成長できる教師になってくれると感じました。持ち続けて欲しい。

 

4年生の卒業研究発表から、自分がどこかに忘れていた新鮮な研究の視点を思い出しました。

校内研修に参加

神奈川県の中学校にて、校内研修に呼んでいただきました。今回の目的は2つ。

 

上越教育大学教職大学院修了生の先生の授業を参観すること。

 

もう一つは講演で「未来に必要な資質・能力ー批判的思考の育成-」をテーマに話しました。博士課程の研究でやってきたことを基に、学校現場で役立つ内容を抽出して、ワークショップを織り混ぜておこないました。
講演については、90分がんばったということで(^^;;、おいときます。

 

この日、感動したのは先生の授業でした。中学2年社会科地理分野の授業でした。


授業開始3分前、休み時間が終わりに近づいた生徒たちは、誰が声を上げるわけでもなく、なんとなく準備に動き始めました。机の上にワークシートを出したり、教科書を開いたり。


そしてチャイムの音が響きました。


授業がすっと始まりました。


号令はありません。


先生は教室の前の入り口あたりに立ってニコニコしています。時折り、生徒たちと目を合わせて何かコミュニケーションを交わしています。

 

学年末テストへ向けてワークシートへ取り組む学習でしたが、それぞれの生徒が、「それぞれのレベルの主体性」を発揮して学びを進めていました。

早く課題をやり終えた生徒は自然に次の課題を見つけて深めたり、友達を助けたりしています。


そして、先生は1時間の中で、全生徒と1回以上なんらかのコミュニケーションをとっていました。

課題について相談にのったり、交流相手を紹介したり、その学び方いいねとジェスチャーをしたり。

 

生徒たちからは「背伸びして勉強している感」を全く感じませんでした。こんな自然にしっとりとした『学び合い』を見たのは初めてです。

 

ある生徒から学習記録のファイルを見せてもらいました。そこには先生の教材研究にかけた時間の痕跡が見られました。

 

教科書だけでは作れないレベルの社会事象の捉え、資料の読み取り、課題の切り口。見せかけのテクニックなどではなく、日々の熱心な教材研究から紡ぎ出された『学び合い』なんだと、私の中で納得しました。

 

あの生徒たちのレベルにもっていくには、相当な時間と労力と失敗の積み重ねの歴史があると思いました。


自分の『学び合い』の授業観をより広くしてくれた素敵な時間でした。

「社会科教育研究」

日本社会科教育学会の学会誌「社会科教育研究」に論文が掲載されました。研究に協力いただいた皆様、ありがとうございました。

 

日社学の論文誌に掲載されるのは初めてです。

この論文誌に論文掲載されることは一つの目標でした。偶然にも巻頭ページから載せていただいて、なんだか恐縮です。

 

論文を読んでいただければ幸いです(J-stageで公開されると思います)。中高の社会科の先生にお勧めしたい内容です。本論文で開発した「4Cチャート」を一度使ってみてください。効果に驚かれると思います。

 

研究の経緯と論文の内容について簡単に紹介します。(論文の内容については、要約しています。論文では詳しく、難しいことを難しく書いています笑)

 

この研究のリサーチクエスチョンは、

なぜ、資料を読めない生徒がいるのか?

なぜ、複数の資料を組み合わせて資料を読めない生徒が多いのか?

 

という中学社会科教員時代の単純な疑問と指導の壁です。これが出発点でした。

ここでいう資料とは、グラフ、表、地図、写真、風刺画、相関図など、社会科の教科書で一般的に扱われる類の資料全般を指します。

 

私(中学校社会科教員)は資料集を開くと、複数の資料を見ながら、読み取れる内容やまとめた結論を述べることができます。社会科教師であれば当然です。生徒たちの中でも学力の高い生徒は、同様に複数の資料から結論を述べることができます。

確かに複数の資料から結論を導出することは難しいのかもしれません。しかし、一つの資料であっても読み取りができない生徒はいます。

資料の読み取りが苦手な生徒に言わせると、「たくさん数字とか文字とか情報があってわかんない」だそうです。それもまたなるほど。

 

この状況を解決する鍵は思考の手順のような「思考プロセス」にあるのではないかと仮説立ててみました。

仮に、種類の異なる3、4種類の資料があるとします。例えば、グラフ、風刺画、相関図、地図など。

まず、一つ目の資料について、

①重要と思われる数値や言葉などを「見つける」ことをします。

②次に、①で見つけた数値や言葉などの意味を「考える」ことをします。

③そして、②で考えた事柄から類推して、共通項を「つなげる」ことをします。それによって複数の資料から根拠を得ます。

④最後は、「結論づける」これまでの読み取りを基にまとめの意見を書きます。

 

①から④の 思考プロセスを辿ることによって、資料の読み取りを行います。このプロセスは、「批判的思考の構成要素とプロセス」(楠見,2015)から着想を得て、社会科の資料活用場面の思考プロセスに合わせて改良したものです。

この思考プロセスを組み込んだ思考ツール「4Cチャート」と称して開発し、実践して評価しました。また、小中学生における批判的思考の育成に関して詳細を述べている点も特徴です。

 

なるべく読みやすくまとめたつもりではありますが、学術論文というと敬遠される現場の先生がいるのではないかと思います。今後は、学会誌に掲載いただいたことを支えに、現場で広く活用していただけるよう研修会や書籍等で発信してきます。

 

また、本研究に関して興味のある社会科の先生がいらっしゃいましたら、私へ直接メールでご連絡いただけたら対応いたします。メールアドレスは、上越教育大学 榊原研究室のHPを検索してください。

 

榊原範久・杉山立・大島崇行:資料活用における批判的思考を育成する思考ツールの開発と評価,社会科教育研究,138,pp.1-13,日本社会科教育学会,2019.